―― Vol.4 三笠高校生レストラン ――

 北海道三笠市。道内でも有数の積雪量を誇るこのまちは、北海盆唄発祥の地である。かつては炭鉱まちとして⼀時代を築いたが、今では過疎地と⾔われて久しい。

 その三笠市でいま、あるレストランが地域を活性化させ、大きな話題になっている。
 ――― それは高校生が何から何まで切り盛りするレストラン。
     その名も「三笠高校生レストラン」である。

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 レストランを紹介する前に、その母体である北海道三笠高等学校を紹介しておこう。

 同校は公立では道内唯一の食物調理科単科校であり、調理師または製菓衛生師になるための最短コースとして、道内屈指の競争率を誇る名門校である。
 卒業生は全国の有名ホテルやレストランへの就職、または大学・専門学校等への進学を果たしている。
 まさしく社会で活躍できる「食」のプロフェッショナル養成校である。

 同校が今の姿になったのは、6年前の2012年のこと。生徒数の減少で閉校となった道立高校を引き継ぎ、2012年春に市立高校として生まれ変わった。
 学び舎には、夢に向かって自ら未来を切り拓く若者が通い、集い、そして切磋琢磨している。 

 養成コースは、調理師と製菓の2コース。

 まず調理師コースでは、日本料理を中心に、西洋料理や中国料理など、各様式別の調理について基礎から応用までの知識と技術を学び、規定単位修得者は卒業と同時に調理師免許を取得できる。

 一方、製菓コースでは洋菓子を中心に学び、基礎・基本の積み重ねで実践力を養うほか、専門学校の製菓衛生師通信教育を受講。同校での学習とあわせて専門的な知識技術への理解を深め、製菓衛生師国家試験への合格を目指す。

 さらに同校は部活動も活発だ。
 「調理部」と「製菓部」は、道内外の各種コンクールで優秀な成績を収めているほか、今回のCHEF'S STORYで紹介する同校の研修施設「三笠高校生レストランESSOR(エソール)」内にある「まごころきっちん」と「Cherie(シェリー)」各店舗の運営を、生徒自らの手で行っている。
 そして、地域連携部は、地域とのかかわりを深め幅広い視野と貢献力の養成を目的として、同施設内にある特産品スペース「ESSOR STORE(エソール ストア)」で販売する商品の企画・開発や校内菜園の運営、さらに各種ボランティア活動と、その活動内容は多岐にわたる。

 こうして生徒たちは、日々の学習のみならず、実践の場での鍛錬を経て、社会で活躍できる「力」を身に付けていくのである。

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北海道の良質な食材と、
生徒たちのまっすぐな感性が織り成す”やさしい味”。

 三笠高校生レストランに到着したのは開店時間直前の10:50。
 取材日はあいにくの天候だったが、そんな心配はどこ吹く風。調理部の「まごころきっちん」、製菓部の「Cherie(シェリー)」には、すでに長蛇の列ができあがっていた。

 開店直前の生徒たちによる朝礼。大きく元気な声が待席にまで届く。
 いざ開店。あっという間に満席になった。

 ホールでは、生徒たちが丁寧に接客にあたっている。開店してわずか1か月。彼らの堂々とした立ち振舞に関心してしまった。

 食事を取らせていただくまでの間、厨房室を見学させていただいた。一糸乱れぬ連携で、一つひとつ丁寧に御膳が生み出されていく。

 洗浄作業も同時進行する。
 各々が自分の持ち場にしっかり取り組み、淀みのない全員プレーで、キッチンに命が宿っていく。

 このあと14:00近くまで満席の状態が続いた。
 そして、この日の提供数を完売。生徒たちも安堵の様子だった。

 食事は「青春御膳」と「みかさ赤ワイン牛丼定食」の2種類から選べる。

青春御膳 1,200円

みかさ赤ワイン牛丼定食 1,200円

 メニューにもよるが、三笠産の野菜を中心に、道内産の良質な食材を使用した煮物、揚げ物、漬物に、同じく三笠産のごはん、三笠産の味噌を使用した味噌汁、さらに人気のだし巻き卵が付く。

「だし巻き卵は、生徒たち全員が毎日練習している」との遠藤校長の言葉通り、噛むごとにじゅわっと出汁とその香りが口の中いっぱいに広がり、抜群に美味しい。

 地産地消にこだわり、素材本来の味に触れられる料理は、”やさしい”という表現がぴったりだと思った。

洗練された味と仕上がり。
スイーツとは、美しいものだ。

 一方、製菓部が運営する「Cherie(シェリー)」では、生徒が試作から商品化までを一貫して行った洋菓子を販売している。

 製菓部では、さまざまな企業とのコラボレーションも活発で、大手製パンメーカーと共同開発したロールケーキを一般販売したり、コンクール受賞作品を商品化したりと、多数の実績を誇る。

 同店では、カフェスペースでコーヒー等といっしょにスイーツを楽しむことができる。もちろんショーケースに並ぶ菓子やパンをテイクアウトすることも可能だ。

 

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プロ仕様の設備を整えた「キッチンスタジアム」

 さらに同施設内には、市運営のレンタル施設「キッチンスタジアム」が併設されている。充実したプロ仕様の厨房機器が整備され、料理教室や料理コンテストなどの会場として利用されている。
 一般利用もOKなので、興味のある方は、気軽に問い合わせてみたらいいだろう。

閉店後、調理部部長、3年生の村越さんに話を聞くことができた。

「三笠市の皆さんをはじめ、多くのお客様から、美味しかった、ありがとう、頑張ってね、って言っていただけたときは何より嬉しい。」

 言葉を選びながら、しっかりとした口調で答える村越さんの目には、オープンから1ヶ月、部長として皆を引っ張ってきた自信が見え隠れする。

「私たちは1日に100食、200食と用意をしますが、お客様が食べるのはそのうちの一つ。仕込みの段階から一つひとつに心を込めて丁寧に仕事をして、一人でも多くのお客様に満足してもらいたい。」

 月曜日から金曜日まで授業があり、それとは別に部活動としての調理部の活動は、木曜日から土日の営業に向けた準備がスタートするという。仕込みの段階から絶対に気は抜けない。

 メニューについては、大枠こそ先生が決めたものの、あとは生徒自ら試作をして、ボリュームやアレンジを決めていったという。
 食材や調味料の仕入も生徒たちの仕事。営業日に足りない材料が発生しないように、細心の注意を払って在庫管理や注文を行っているのだという。
 そして「三笠市は野菜のまち。春の野菜、夏の野菜と、旬の素材をメニューに取り入れて、季節も感じていただきたい」とも。
 季節が移り変わるにつれ、彼らの引き出しも増えていく。

 厨房機器については、
「ガステーブルひとつとってみても、全面五徳のもの、五徳の周りに道具が置けるもの、背の低いもの、と用途に合わせて何種類もあって、それぞれが本当に使いやすい。」

「スチームコンベクションオーブンはスチームモードでの使用が主になりますが、温度も時間も自動で管理してくれるので、付きっきりにならずに済み、とても便利。」

 さすが、時間との勝負でもある”実践の場”で使っているからこそのコメントである。

だし巻き卵を盛り付け中の村越さん

 だし巻き卵が得意で、これからは煮方も完璧にこなしたいという村越さん。

「もっともっと料理に関する知識を深めて、たくさんのお客様を笑顔にしていきたい。」

 明快にそう言って、今回のインタビューを締めくくってくれた。

 三笠高校生レストラン。施設名の「ESSOR(エソール)」は、フランス語で「飛翔」を意味する。生徒たちが夢に向かって大きく羽ばたくことを願って名付けられた。
 ここでは、日々の授業の成果を発揮する場として、また、より実践的な研修の場として、料理人のたまご達が今日も活躍している。

―― SHOP INFO ――

三笠高校生レストラン「ESSOR」

みかさこうこうせいレストラン「エソール」

〒068-2107 北海道三笠市若草町396番地1
Tel.01267-3-7335
・開館時間 4~9月/9:00~18:00、10~3月/9:00~17:00
・調理部のお店「まごころきっちん 」
 土曜・日曜・祝日、長期休業期間中(春・夏・冬)
 11:00~14:00(ラストオーダー13:30)
・製菓部のお店「Cherie」
 土曜・日曜・祝日、長期休業期間中(春・夏・冬)
 11:30~14:30(ラストオーダー14:00)
※ただし学校行事などで休みとなる場合あり。
※営業時間や定休日は変動する場合がありますので、公式サイトでご確認ください。

https://mikasa-highschool-restaurant.com 

―― SCHOOL INFO ――

北海道三笠高等学校

ほっかいどうみかさこうとうがっこう

〒068-2107 北海道三笠市若草町397番地
Tel.01267-4-2200(事務室・校長室)01267-4-2201(職員室)
入学定員40名

昭和20年4月開校の道立高校の歴史を引き継ぎ、「地域に開かれ」「地域に教育の場を求め」「地域と共に歩む」学校を目指している。

http://www.city.mikasa.hokkaido.jp/highschool/