―― Vol.8 農業生産法人 たんぽぽ農園 ――

 農業・漁業などの6次産業化の必要性が叫ばれて久しい。時代の変化とともに、農業・漁業などの1次産業は利益の確保が難しくなり、雇用の創出にも難を来たすなど課題が多いためだ。
 そんな中、千葉県は房州・館山市に、実に理想的な「新しい農業のビジネスモデル」を構築した経営者がいる。農業生産法人「たんぽぽ農園」の代表、鷹松募社長だ。同社は自社農園で収穫したサツマイモ・イチゴ・トマトなどの農産物を自社の加工場で商品に加工、さらには昨年11月にオープンしたカフェ「芋屋金之助」ではその加工品の販売はもちろん、サツマイモやイチゴをふんだんに使ったスイーツを調理・提供するという、まさに絵に描いたような6次産業化を実現している


■昨年11月にオープンしたカフェ「芋屋金之助」

 もともと鷹松社長は以前はヤマトグループの創業者として、房州における水産業の仲卸から加工・販売、さらには飲食店の経営など多岐に渡る事業を手がけ、「漁業の6次産業化」を体現したその人である。テレビ東京の「カンブリア宮殿」にも出演するなど業界の注目を集めた鷹松社長が次なるステージとして取り組んだのは農業だった。

漁業から農業への転進

「私が農業に転進を図ったのは3年前のことです」

 緊急事態宣言の開けた3月中旬のお昼どき。館山の暖かな陽射しが照りつけるなか、「芋屋金之助」のテラス席で鷹松社長は言う。

「自分でやってみてわかったんですが、農業というのは収穫だけしていてもなかなか利益が出ないんですね。そこでどうすれば"儲かる農業"ができるのかを考えました。当時から世間では6次産業化というのが騒がれていましたが、それは合弁会社の設立を促進するようなもの。しかしそれでは結局経営がうまくいかないわけです。やはり6次産業化を行うにはすべて自社でやる必要があると確信しました」

なぜ合弁会社だと上手くいかないのだろうか。

「国が推進しているやり方は言うなれば"農家と商人を結びつける"こと。それで合弁会社を設立して6次産業化を図ろうというものですが、農家は"作物を高く売りたい"、しかし商人は"それを安く仕入れたい"。お互いの利益がどうしても相反するわけです。しかし、生産・加工・販売まですべて自社で行うことでその問題が解消できるんです

サツマイモに秘められた可能性

 

■「芋屋金之助」の店内。
■数々のサツマイモ商品が並ぶ。

「そんな中で私が目をつけたのがサツマイモです。サツマイモはその年によって多少相場が変わりますが、キロ単価がだいたい50~100円、最近では芋ブームも手伝って300円といったところです。ですが、焼き芋に加工するとキロ単価が約1,500円、干し芋にいたっては6,000円とどんどん付加価値がつくんですね。このデフレのなか、加工することでこれだけ付加価値のつく食材は他にない。そう思って着手しました」

とは言ってももちろん簡単だったわけではない。

「私はもともとが魚屋ですから、魚や包丁の扱いにはもちろん自信があった。ですが農業やスイーツのこととなるとまるでわからない。まさに1からの勉強でした」

鷹松社長が自社農園にてサツマイモの栽培を開始し、さらに加工場を設けたのが今から3年前。試行錯誤の連続だったという。

「サツマイモを使ったプリンの商品化に取り組んでいたんですが、どうしてもうまくいかない。"す"が入ってしまうんですね。私に一緒についてきてくれた板前も慣れないスイーツ作りに奮闘してくれまして、2人して頭を抱えておりました。スイーツに詳しいマルゼンの担当の方とも一緒になって試作を繰り返しまして、インストラクターの方からは"せっかくサツマイモの商品化に取り組まれているんですから、しっかりと差別化できるものを作りましょう"とオーブンの使い方のアドバイスもいただきました」

そして出来上がったのがこちらのサツマイモのプリン。滑らかな食感の中にもサツマイモの甘味がしっかりと効いていて、”サツマイモを食べている実感”が沸いてくる。そしてトッピングの小さくカットされたサツマイモは驚くほど柔らかく熱を通してあり、存在感が抜群だ。


現在ではプリンはもちろん、多岐に渡るサツマイモの商品化に成功しており、「芋屋金之助」で購入できる。


■店内にはカフェコーナーも併設。さきほどのさつまいもプリンなど、カフェメニューの食事が可能だ。


メニュー機能やオートリフトなど、省力化機器を導入した厨房

それではいよいよ厨房にお邪魔させていただく。まずはカフェメニューの調理の主力である当社製のベーカリーオーブン。上段にコンベクションオーブン、下段にミニデッキオーブンを組み合わせており、ルビーレッドの外観が目を惹く。コンベクションオーブンはスポンジケーキ、ミニデッキオーブンはシュークリームなど、メニューに応じて使い分けている。


同店でパティシエを務める押本氏にも話を伺った。

ベーカリーオーブンはとても使いやすいです。とにかく操作方法がわかりやすい。一度説明を聞けばすぐに使えるのが良いです」

「いちどプログラムが出来上がってしまえばメニュー機能に登録して、あとは誰でも簡単に調理できるので助かっています。」

なお、ケーキ類の焼成はすでにパートの方が担当しているとのこと。メニュー機能を利用した省力化を図っている。
■パティシエの押本氏

そして電気フライヤーも1台導入していただいている。

「フライヤーは芋けんぴの調理に使っています。予め袋詰めされている芋けんぴとは別に、”揚げたて芋けんぴ”というメニューがあるので、その調理に使用しています。オートリフトタイプなので手間がかからず助かっています

ベーカリーオーブン同様に、機械に調理を任せることで効率よいオペレーションを実現している。


自社農園で生産した作物を貯蔵・加工する加工場

芋屋金之助から車で走ること約15分。次は加工場へと案内していただいた。


■たんぽぽ農園 加工場

右側のプレハブがサツマイモの貯蔵に使われる倉庫、通称『キュアリング庫』だと言う。さっそく中を見させていただくと、ひんやりと涼しい空間にサツマイモが大量に貯蔵されていた。

--キュアリング庫--
サツマイモは通常9~10月に収穫されるが、これを年間通して供給するには長期の保管が必要となる。しかしサツマイモは収穫時の傷口から腐敗を起こしやすい。そこで、適切な環境下(温度・湿度など)で保存することにより、その傷口を自然治癒(キュア)するとともに、長期保存が可能となる。さらに長期保存されたサツマイモは熟成するに従いデンプンがショ糖へ変化するため、より甘味のあるサツマイモとなる。
■キュアリング庫。これが全てサツマイモである。

「見てください。これはだいぶ熟成が進んで蜜が出てきています」

鷹松社長はそう言うと貯蔵していたサツマイモを手に取って見せてくれた。サツマイモから蜜が滲み出ているのが確認できる。まるで焼き芋だ。鷹松社長はキュアリング庫を見渡しながら言う。

「このキュアリング庫はマルゼンさんに作ってもらいました。プレハブ小屋を建てて、そこに温度と湿度を管理する機能を持たせるわけですが、私も初めての経験だったのでマルゼンの担当さんと一緒に考えて作ったんです」


幅広い用途のスチコン、省力化を実現するフライヤー

さらに加工場を案内していただく。まず目を引くのが20段タイプの大型スチコンだ。

「スチコンは幅広い用途で使えるので重宝しています。スイートポテトやプリンもスチコンで作っていますし、サツマイモの下茹で(蒸し)も行っています。微妙な火の通り具合も調節できるのが良いですね」

さらに電気フライヤーは4台導入いただいている。

「こちらは芋けんぴの調理に使っています。オートリフトタイプなので自動で揚げ上がるのが良い。それに芋けんぴをタレに漬ける工程があるのですが、効率よく行えるようにフライカゴの取っ手を長くオーダーメイドしてもらいました


スタッフの方がデモンストレーションしてくださった。確かに取っ手が長いため、この箱型の鍋への浸漬もスムーズにできる。

 

■特注の長取っ手で作業がしやすい。
■通常はこの箱型の鍋の中にけんぴのタレが入っている。

また、現在特に重宝しているのがこちらの高速裏漉し機だ。

「サツマイモのスイーツを作るにあたってどうしても必要なのがサツマイモを裏漉しです。これをどうにか機械化できないかと思ったのですが、どのメーカーからも”サツマイモはできない”と言われてしまい途方にくれていたんですが、マルゼンの担当さんが遂に見つけてきてくれました」

弊社の担当営業も「日本中を探し回った」と感慨深げであった。
■高速裏漉し機

イチゴやトマトを栽培する自社農園。直売所も併設。

さらに、たんぽぽ農園の自社農園にも案内していただいた。加工場のすぐ近くにたくさんのビニールハウスが連なっている区画があるのだが、ここはすべて同社の農園だと言う。

 

ここでは主にイチゴ、トマトの栽培を行っており、直売所も併設している。鷹松社長自らトマトをもぎとって渡してくれた。

「”ちばさんさん”という種類のトマトです。甘いですよ」


食べてみて驚いた。本当に甘い。まるでフルーツだ。残念ながらサツマイモ畑は「ちょうど収穫が終わった時期で土しか無い」とのことで見ることはできなかったのだが、以前収穫した際の写真を見せていただいた。

鷹松社長は笑う。

「やはり根が魚屋ですから。鉢巻をしないと気合が入らないんですよ」


■収穫したサツマイモを手にする鷹松社長。

農業を天職に。

今後の展望について伺った。

「私が長年携わってきた漁業から農業へ転身して3年経ちます。わからないことだらけで試行錯誤の連続だった3年間でしたが、今回『芋屋金之助』のオープンまでこぎつけて、ようやくこの先の展望が見えてきた気がします。これからも農業を自分の天職だと思って、より一層全力で取り組んで行きたい」

―― SHOP INFO ――

芋屋金之助


〒294-0054 千葉県館山市湊29
Tel. 0470-29-7401
営業時間10:00-19:00(定休日 水曜日)
※営業時間や定休日は変動する場合がありますので、公式サイトでご確認ください。
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農業生産法人 株式会社たんぽぽ農園


〒299-2526 千葉県南房総市沓見246
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