―― Vol.15 洋光台ハンバーガー PassTime ――

取材日:2023/11/16


 横浜市内を走るJR根岸線の洋光台駅前に広がる商店街〈サンモール洋光台〉。飲食店をはじめ、青果店、ベーカリー、美容院、クリニックなど、様々な店舗からなる地域密着型の商店街だ。日本全国で商店街の過疎化が進む中、1年を通じて多くのイベントを開催し、秋のハロウィンイベントでは3,000名を集客するという活気を誇る。

 そんなサンモール洋光台の会長の店が、今回お邪魔した《洋光台ハンバーガー PassTime》。店舗の外観からしてアメリカンカジュアルへのこだわりを感じさせる本格的なハンバーガーショップだ。

 

■お店の外観はアメカジへのこだわりを感じさせる。
■テラス席にはホットクッションが常備。細やかな気遣いが嬉しい。


 店内に足を踏み入れると内装はオールドアメリカンで統一されており、古き良きアメリカを感じさせる様々なレトロ調のサインや、ノーマン・ロックウェル(アメリカで幅広い人気を持つ画家。1940~50年代の作品が人気)のポストカードであしらわれた店内が迎えてくれる。


この日いただいたのは同店名物の「洋光台ハンバーガー」と「ダブルチーズバーガー」。どちらも横浜市磯子区の『磯子の逸品』に選ばれた人気メニューだ。


 

■レトロなサインの数々。有名なRoute66のサインも。
■ノーマン・ロックウェルのポストカードがそこかしこに。


この日いただいたのは同店名物の「洋光台ハンバーガー」と「ダブルチーズバーガー」。どちらも横浜市磯子区の『磯子の逸品』に選ばれた人気メニューだ。

 

■こちらが地元の名前を冠した洋光台ハンバーガー。 
■そしてこちらがダブルチーズバーガー。共にボリューム満点だ。

『磯子の逸品』
地域に根付き、愛されている磯子区内の食べ物や飲み物を区民の方を中心に広く募集し、区役所が逸品として認定するもの。《洋光台ハンバーガーPassTime》はこの制度がスタートした2011年に洋光台ハンバーガーが、2019年にダブルチーズバーガーがいずれも推薦により認定されている。

 どちらのメニューもまずは見た目のボリュームに驚く。大きなバンズに肉厚のパティの存在感が凄い。そしてダブルチーズバーガーは肉厚パティが2枚とたっぷりのチーズトッピング。これぞアメリカという豪快さだ。

 しかし、いざ食べてみるとまずバンズが驚くほどふっくらと焼き上げられていることに気付く。表面のクラスト部分のサクッとした歯ごたえに対して中はフワッと柔らかい食感で、豊かな小麦の香りが食欲を刺激する。肉厚のパティもジューシーな焼き上がりで、スパイスの風味がこれまた食欲を掻き立てる。しっかりした味付けも決して強すぎることはなく、手作りの優しい味と言った感じで、見た目のボリュームに反してとても食べやすくあっという間に完食してしまった。


15年間コツコツと。口コミで広がった人気。

 「実はオープンしてからこれまで宣伝というものをしたことが無いんです」

 《洋光台ハンバーガーPassTime》の柿木稔氏はそう言って笑う。


■《洋光台ハンバーガーPassTime》のハンバーガー職人 柿木稔氏。


 「今までテレビ・ラジオ等の取材は何度かありましたけど、チラシを作って新聞折込とかは一度もやったことが無いんです。なぜかと言うと、そこにお店ができる、ということ自体が街の人達にとっては一番のサプライズ。「何屋さんができるんだろう」と何もしなくても注目を浴びるんですね。そして何のお店かわかったときに興味を持ったお客様はちゃんと来てくれる。そこで良い体験、良いお食事をしてもらえば、リピートしていただけてお店も段々と稼動していきます

 とは言ってもオープン当初から順風満帆だったわけではない。

  「僕が《PassTime》をオープンさせた2009年はハンバーガーって60円くらいだったんですよ。当時うちのハンバーガーは400~500円だったので「8倍の値段で売れるわけないだろう」とか「大手チェーン店のある駅でそれより悪い場所で個人店なんて無理だ」と専門家等にたくさん言われました(笑)。実際に最初の頃は集客ができなくて、お掃除に力が入る毎日でした。

 しかしそんな中、柿木氏が自信を深めるふとしたきっかけがあったと言う。

 「ある日フラッと1人で立ち寄られたお客様がいて、特に会話することもなく食事をして帰られた。そしたら次の日もいらしてくださったんです。僕自身の感覚ではよほど美味しくないと翌日にリピートすることはないと思うんです。だから、"このお客様にはそれだけ良い体験をしていただけたんだ"と確信できた。同じように1人でいらしたお客様が数日後に家族連れで来ていただいたり、ご友人を連れて来ていただいたり、というふうに数人のお客様がリピートしていただくことで徐々にお客様が増えてきたんです。ゆっくりでも良いから頑張っていればいつかはお客様が広がっていく。コツコツ続けて行くのが一番簡単なプロモーションなんだと自信が持てました」

 そして同店は来年(2024年)の2月には記念すべきオープン15周年を迎え、いまや多くの人がブログやSNSで紹介する人気店だ。さらに前述した横浜市磯子区公認の「磯子の逸品」にも選出されている。柿木氏の地道でコツコツとした日々の取り組みが口コミだけで多くのファンを掴む結果となった。


手作りにこだわる理由。作り手の責任。

 同店の大きな特徴としてバンズを外注せず店内で焼成している点が挙げられる。それも粉の配合・ミキシングから奥様の柿木佳織氏が行うオール手作りのスクラッチ製法なのだ。グルメバーガーの有名店でもバンズは近隣のベーカリーショップに発注していることがほとんどだが、そこを敢えてスクラッチ製法にこだわる理由とは何なのか。

■この見事なバンズも柿木氏の手作りである。

 「一番のメリットは自分で作ると材料に何が入っているかがわかることです。「信頼できる業者から良い材料を仕入れてるはずだったのに実は違った」という食品偽装のニュースとかあったじゃないですか。やはり、原材料から自分で選んで、仕入れて、毎日自分で作って味見をすることが大事。そうすれば品質に対して自分自身で太鼓判を押せるし、変な物は混ざっていないと自信を持って言えるんです」


個人店、飲食店が目指すべき姿とは。

 さらに柿木氏は個人店として、飲食店としてあるべき姿も語ってくれた。

 「例えばハンバーガーであれば根底となる基本的なファクターはバンズ、パティ、ソースです。ここは自分で作らないとオリジナリティが出せない。ここを既製品で済ませてしまうと"そこでしか食べられないもの"ではなくなってしまう。やはり"このお店に来なきゃ食べられないもの"、"そこでしか食べられないもの"を目指さないといけない。そこが個人店の一番の売りですから

 「パティも自家製で11種類のスパイスを調合して味付けをしていますが、注文を受けてから1枚1枚手延ばしで延ばしてからグリドルで焼くんです。もちろん予め焼いておいて保温しておくこともできるんですが、やはり1枚1枚を焼きたてでお出しした方が美味しさが違う。そしてそれが食べ物屋の原点なのかなって思うんです。ご注文をいただいてから、食べてくださる人のために料理を作るというのがあるべき姿だと」

 作り手としての責任を果たし、オリジナリティを追求し、食べ物屋の原点を忘れない。それが柿木氏が手作りにこだわる理由だ。


厨房のメインとなるグリドルは耐久性に満足。マルゼンの豊富なラインアップで機器入れ替えにも対応。

 それでは厨房へ。ハンバーガーショップと言えばメインの機器はやはりグリドルだ。《洋光台ハンバーガーPassTime》では当社製の間口900mmの肉厚鉄板のグリドルを使用していただいている。


■メイン機器となるガスグリドル(間口900mmタイプ)。


 「やはり毎日使うものなので耐久性が重要なんですが、マルゼンさんのグリドルは本当に壊れない」と柿木氏。そしてグリドルの隣には縦2口のガスコンロ(主に熱湯消毒・煮沸消毒に使用)が設置してある。オープン当初はグリドルは一回り小さいモデルを使っており、ガスコンロも横2口タイプを置いていたが、お客様が増えるに従って調理能力アップのために現行の間口900mmタイプに入れ替えを実施。そうするとガスコンロのスペースも半分になってしまうが、当社のガスコンロ〈飯城〉シリーズの縦2口タイプに入れ替えて事なきを得たそう。マルゼンの豊富なラインアップがお役に立てたようだ。


■以前は横2口タイプだったのを縦2口に入れ替えたガスコンロ。
 隣は当社の涼厨ガスフライヤー。


 さらにガスコンロの隣には当社の涼厨ガスフライヤーが設置されている。「ポテトは大量に揚げるので復帰力が重要なんですが、マルゼンさんのフライヤーはパワーがあるので問題なし」と言っていただいた。


店内奥にミニパン工房を設置

 さらに店内の奥に進むとパン工房が設置されている。かなりの狭小スペースだが、限られたスペースに当社製ベーカリーコンベクションオーブンと架台ホイロを2段組みで効率良く設置してある。


 

■狭小スペースに見事にレイアウトされている。
■「コンベクションオーブンの電源出し位置の変更、ミリ単位の設置技術はさすがマルゼンです(笑)」と柿木氏は笑う。


 この限られたスペースで《PassTime》で提供する全てのバンズが柿木佳織氏の手によって作られる。「オープン前、まだ店がない時、マルゼンさんのオーブンを検討中に一度テストキッチンで焼かせてもらったんですよ。こころよく焼かせてくれたマルゼンさんとは、その時から長いお付き合いになってます。マルゼンさんのオーブンは焼きムラも無いし温度の立ち上がりも早い。とても使い勝手が良いです」と言っていただいた。

■オーブンの向こうには焼成されたバンズがズラリ。


店名《PassTime》に込められた想い。

 最後に店名《PassTime》に込められた意図を伺った。

 「"PassTime"は一言で言うと"ゆっくりしてくださいね"という意味なんです。"ゆっくり"というのは時間的なゆっくりっていう意味合いもあるし、ほんのわずかな時間でもリラックスして欲しいという思いもあるんです。例えるならピットイン。忙しいサラリーマンの方がほんの30分の短い昼食でも《PassTime》にピットインして英気を養っていただいて、午後も頑張って欲しい、そんな意味が込められてます」

 さらに柿木氏は続ける。

 「基本はやはり"ハッピービジネス"。そこにお店があることで、気軽に食べにきてもらうことができるし、挑戦の連続だったが無事完成できて良かった地域に何か恩返しができるんじゃないか。そういう思いで続けています」

 手作りにこだわることで個人店・飲食店としてのあるべき姿を体現し、お客様には気持ちも時間もゆっくりしていってもらえる空間作りを心がける《洋光台ハンバーガーPassTime》。来年には15周年を向かえる同店は、これからも地域の方達の憩いの場であり続けるに違いない。

―― SHOP INFO ――

洋光台ハンバーガー PassTime


神奈川県横浜市磯子区洋光台3-13-5-104
Tel. 045-367-8081
公式サイト